取説の文章は「翻訳しやすさ」を常に求められます。これがトリセツライティング※とブログライティングのとの一番の違いです。
※一般的には、取説のライティングのように製品の使用情報に関するライティング技術は「テクニカルライティング」と言いますが、意味が幅広いため、本記事では「トリセツライティング」と表記しています。
しかし、わかりやすさ(読みやすさ)という点では、翻訳しやすい日本語(特に機械翻訳しやすい日本語)が必ずしも読みやすく、わかりやすい日本語になるとは限りません。むしろわかりにくくなります。
では、わかりにくくならない程度に翻訳しやすい日本語を書くにはどうしたらいいのでしょうか。
本記事では、「トリセツライターがブログを書きたいとき」、または逆に「ブログライターがトリセツを作りたいとき」に参考になるように、両者にとって効果的な「翻訳しやすい日本語を書く方法」を説明しています。
なぜ取扱説明書(トリセツ)では「翻訳しやすさ」が求められるのか
取扱説明書というのは製品の一部なので製品が海外に輸出されるときに同梱する必要がありますが、その際、先行作成した日本語トリセツを翻訳して作成することが多いです。そのときに正確に翻訳するために日本語のトリセツ作成者の「製品知識」を翻訳者と共有する必要がありますが、この手間を少しでも減らすために「翻訳しやすさ」が求められるというわけです。
また、トリセツの文章はわかりやすさが重要と思われがちですが、実際の制作現場ではわかりやすさよりも「正確さ」と「効率」(記載ボリュームの削減等)ほうが重視されます。これはトリセツが販売促進を目的とした書物ではないからです。(トリセツがわかりにくいと言われる理由がこの辺りにあると筆者は考えています)
さらに、昨今では製品の使用情報はブログ(このブログもその類です)やYoutubeなどの媒体で詳細に知ることができるため、トリセツにとって「わかりやすさ」はさほど必要ではないもの(非効率的な要素)になってしまいました。
つまり、「翻訳しやすさ」がトリセツに求められる理由は、「翻訳しやすい日本語を書くことが間接的にコストカットになる」ためです。
「翻訳しやすい日本語」 = 「コストカット」
トリセツライティングとブログライティングの共通点
一方ブログライティングでは、「読者に読んでもらってなんぼ」なので、「わかりやすさ」は特に重要です。
重要ではあるのですが、ブログの場合、いくら「わかりやすさ」を追求したところで、そもそも読者に記事を発見してもらって読まれなければ意味がありません。そこで、検索エンジンの検索順位を上げるために、「わかりやすさ」だけでなくUX(ユーザーエクスペリエンス)※の高いブログを作る必要がありますが、検索エンジンのAIにどのように評価されるのか、また検索順位にどのように影響するのかは実際にはよくわからない部分(Googleのアルゴリズムで常に変動する)であり、とても難しい部分でもあります。
※文章の「わかりやすさ」を含む、ユーザーが感じる使いやすさ、感動、印象といった体験のすべて
そこで筆者は「翻訳しやすい文章はGoogleが理解しやすい文章ということになるのではないか」つまりSEO※に効果があるのではないかと考えてブログを書いています。(根拠の無いただの仮説に過ぎませんが、、、)
※検索エンジン最適化(Search Engine Optimization)
「翻訳しやすい日本語」 = 「Googleが理解しやすい日本語」
翻訳しやすい日本語とは
翻訳しやすい日本語を書くための条件は細かくはいろいろありますが、突き詰めると以下の5つに集約されます。
機械翻訳をする前にまず「中間日本語」書くという手法があります。「中間日本語」はGoogle翻訳やYahoo翻訳などの機械翻訳で正しく翻訳できる日本語のことですが、翻訳前に、この「中間日本語」を作る作業のことを「プリエディット」と呼びます。この記事では「中間日本語」を作るための手法を説明している「英文”秒速”ライティング」を参考にしています。
Google翻訳を使って「翻訳しやすい日本語」を書く
少し手間はかかりますが、以下の方法を使うと「翻訳しやすい日本語」になるのはもちろんですが、かなりの確率で誤字・脱字や文法がおかしい日本語を発見することができるため、精度の高い日本語校正をしたいときに活用することができます。
- 中間日本語を意識して「翻訳しやすい日本語」を書く。
- 1文ずつGoogle翻訳して英文を作成する。
- 作成した英文を再びGoogle翻訳で日本語に戻す。
- 最初の日本語と同じ意味の文章に戻ったらOK。
- もし、文章が長かったり、専門用語や日本語特有の表現が使われていると、意味が異なる日本語になってしまいます。その場合は以下の「翻訳しやすい日本語」(中間日本語)の具体例」に注意してリライトすると良いでしょう。
「翻訳しやすい日本語」(中間日本語)の具体例
1.短文化
最初にして、ほぼこれがすべてといっても過言ではないほどに重要なことです。文章は短ければ短いほど文意が明確になり翻訳しやすくなります。1文の長さは50字以内にまとめる読みやすいと言われています。
一文一義
パスワード入力画面が表示されるので、登録してあるパスワードを入力しますが、画面に入力した文字は表示されません。 | パスワード入力画面が表示されます。登録してあるパスワードを入力します。このとき、画面に入力した文字は表示されません。 |
長文は分割する
文末や文頭を任意の位置にそろえるというインデント機能を使って文章をブロック化すると、読みやすくなるように整えることができます。 | インデントは、文末や文頭を任意の位置をそろえるための機能です。この機能で文章をブロック化し、読みやすく整えることができます。 |
接続詞で文をつなげない
ユーザー登録が完了しているので画面にユーザー名とパスワードを入力しますが、入力した文字は画面には表示されません。 | ユーザー登録が完了しているので、画面にユーザー名とパスワードを入力します。入力した文字は、画面に表示されません。 |
箇条書きにする
Webメンバー登録の際に必要なものは、12桁のシリアルナンバー、ユーザーID、パスワード、利用者氏名、連絡先のメールアドレスです。 | Webメンバー登録の際は、次の情報が必要です。 |
2.省略しない
日本語では文脈で推測できる単語も英語では省略すると文章が成り立たなくなってしまいます。
主語を省略しない
主語をつけるとおかしくなる文章は、主語を変えるリライトをすると良いです。
マウスを動かすと、画面の中のポインターを動かします。 | マウスを動かすと、画面の中のポインターが動きます。 |
目的語を省略しない
組み立てるときは、サイドボードを下にします。 | サブセットを組み立てるときは、サイドボードを下にします。 |
具体的に書く(数字や対象を省略しない)
そのフォルダー内のファイルを削除します。 | そのフォルダーにある2つのグレーのファイルを削除します。 |
3.わかりやすい構文
なるべく読み返すことがないように書くのが基本です。
主語と述語を近づける
サポート窓口担当者が、お客様の問い合わせ内容によって対応いたします。 | お客様の問い合わせ内容に合わせて、サポー卜窓口担当者が対応いたします。 |
修飾語と非修飾語を近づける
3日前に送信されたメールが不達となったことがわかった。 ※送信したのが3日前なのか、不達となったのが3日前なのかわからない。 | 3日前に送信されたメールが、不達となったことがわかった。 送信されたメールが、3日前に不達となったことがわかった。 |
視点を一致させる
まず手動でだいたいのポイントを調整し、その調整が合ったところをOCR機器は自動的に認識して、正確なポイントを検出できます。 | 手動でおおよそのポイントを合わせます。OCR機器は、その調整されたポイントを自動的に認識して、正確なポイントを検出します。 |
複数の意味に解釈できる構文は避ける
物質Aは物質Bが苦手である。 | [解釈1]物質Aが物質Bを苦手としている。 [解釈2]物質Aを、物質Bが苦手としている。 |
4.シンプルな表現
冗長な表現、抽象的な表現は読解の妨げになります。
できるだけ単文で書く
- [単文]:
主語・述語の関係が1つだけ成り立っている文
- [重文]:
主語・述語の関係が2つ以上あって、それらが並立の関係にある文
- [複文]:
主語・述語の関係が2つ以上あって、それらが並立の関係になっていない文
[重文]異常時にはシャッターが閉まり、警官が駆けつけます。 [複文]異常時にはシャッターが閉まり、警官が駆けつけます。 | [単文]公園の桜が、美しく咲いた。 |
敬語はできるだけ使わない
ご連絡賜りたく、よろしくお願い申しあげます。 | ご連絡ください。 |
指示語(代名詞)はできるだけ使わない
デスクトップ上にあるTCフォルダーにTCDocファイルが格納されています。これをUSBデバイスにドラッグ&ドロップでコピーします。 | デスクトップ上にあるTCフォルダーにTCDocファイルが格納されています。このTCフォルダーをUSBデバイスにドラッグ&ドロップでコピーします。 |
「する」をつけて名詞を動詞形にする
設定を行います。 | 設定します。 |
5.簡単な単語(用語)を使う
人は読んでいる最中に少しでもわからない部分があると、読解力が大幅に低下すると言われています。
難しい単語(専門用語や略語)はできるだけ避ける
TC社は再見積展開を予定している。 お支払いはすべて代引でお願いします。 | TC社は再度見積もりを各社に依頼する予定である。 お支払いはすべて代金引換でお願いします。 |
正しくない単語(品詞)はできるだけ避ける
いろいろと食べ歩く 文を大きく書き換える必要がある。 | おいしいものを探して、あちこち歩く 文を大幅に書き換える必要がある。 |
参考文献
TC技術検定は一般財団法人テクニカルコミュニケーター協会が主催する検定試験です。興味がある方は下記リンクへどうぞ。